願わくは、雨にくちづけ
「結婚するとなれば、ゆくゆくは家庭に入ってもらうことになるとは思うけど、まずは伊鈴が納得いくように話し合っていこう」
立花の柔軟な答えに、伊鈴も頷いた。
そして、彼が淹れてくれたコーヒーを飲んで、ふっと息を吐きだして、少しずつ打ち明けていく。
「立花家に入ったら、一緒に暖簾を守っていくことになるって頭では分かっていたんです。でも、分かってるようで分かってなかったんだなって……」
「伊鈴は、なにも心配しなくていいよ。一緒に過ごしていたら、だんだん分かってくることもあるし、先代や女将さんから学ぶところもあるだろうから、少しずつでいい。完璧も求めてない。ただ、俺についてきてくれたら、それで十分だから」
自分の肩を抱いて、とんとんと宥めるようにリズムを刻む立花の手は、不安を一緒に感じてくれていると伊鈴は思った。
(なにも心配しなくていい、完璧じゃなくていい。そう言ってくれる彼の覚悟に、どれだけ寄り添えるだろう)
そして、いつかは、彼を支えられるようなたくましい女性になれるのか……。