願わくは、雨にくちづけ
「他には?」
「……もし、煌さんのプロポーズを断ったら、別れなくちゃいけないって分かってるんです。でも、それは嫌なんです」
(こんなこと言われたら、さすがに困るよね)
言葉にしたら、改めて我儘が過ぎると思った。
こうしてプロポーズの返事すら迷っているのに、別れたくもないなんて、彼の気持ちをなんだと思っているのかと怒られても仕方ないほどに失礼だろう。
でも、今はこれが本心。
彼に飽きられようと、これ以上ない我儘だと匙を投げられてしまっても、今日は正直に打ち明けると決めたのだ。
押し黙った立花の顔も見れず、テーブルのコーヒーに視線を合わせる。
彼は覚悟を決めているのに、いつまでも悩んで踏ん切りのつかない自分が嫌いになりそうだ。
「俺は、ずっと伊鈴の恋人でいるよ」
1分ほどの沈黙を破って立花が出した答えに、伊鈴の目頭が熱くなった。