願わくは、雨にくちづけ

 ――《結婚式には、絶対に呼んでね!》

 週末、相談に乗ってくれた千夏に電話で報告をすると、そんな返事が返ってきた。
 「ようやくプロポーズを受けたばかりなのに、気が早い」と笑って流したけれど、千夏がとても喜んでくれたのは嬉しかった。
 だけど、立花の妻になるという実感もなく、伊鈴は数日経っても、どこかぼんやりしてしまうのだった。


「お疲れ様です」
「あ、お疲れ様。どうだった?」

 顧客と打ち合わせを終えた新井が席に戻ってきた。


「結構感触よかったです。既存顧客からの紹介っていうのは、やっぱり大きいですね」

 週が明けてからというもの、彼の態度が変わった。
 今まではなにかと近くに寄ってきたり、話しかけてくることも多かったが、普通の距離感を保つようになったのだ。
 日常的な業務報告や他愛ない話も、前のめりだったはずなのに……。

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