願わくは、雨にくちづけ
「十河さん、俺、今度合コンに誘われたんですけど、いい子がいたら相談に乗ってもらえますか?」
「うん、いいよ」
(きっと、私への特別な感情はなくなったんだろうな。それが新井くんにとっては一番だからよかった)
まさか、立花が裏で手を回しているとは思いもせず、伊鈴は新井の心変わりなのだろうと納得してしまった。
午後になり、定例の営業会議が始まった。
季節で需要が変わる製菓材料は、旬のものを多く確保しておかなくてはならないが、どれほど需要があるのかを見込むのも大切だ。
それに、常に新規開拓は必要で、新しいお客様ほどニーズに応えられるように準備しておかなくてはいけない。
これから冬を迎えるにあたり、小豆が旬を迎える。契約農家で採れた粒よりの小豆は、最高級品から安価なものまで様々。
(煌さんのお店に、うちの商品を提案してみたらどうだろう)
伊鈴の頭を、そんな考えが過った。
まだまだ勉強することは多いが、今までの仕事の経験や様々な材料を見てきた目を活かして、立花の支えになれるのではないかと思いついたのだ。