願わくは、雨にくちづけ

《なんでそこまで兄貴が肩入れするんだよ》

(やっぱり、ちゃんと話せてないんじゃないのか? 金を積んで、これで納得してくれなんて、失礼なことはしてないだろうな……)

 立花は、樹の反応で察すると、すかさず今夜の予定をタブレットで確認する。


「樹、今夜予定はあるか?」
《今日は会食がある》
「近々、ゆっくり飲んで話そう」
《あぁ……じゃあ、15日の夜にでも。――悪い、また連絡する》

 プツッと勝手に切られた通話に、立花はため息をひとつ。
 後悔すると言い切ったものの、実際のところそこまであの店のことは知らない。ただ、店主の長年の夢が詰まった宝箱のような店だということと、クロワッサンが唯一無二の絶品というだけだ。

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