願わくは、雨にくちづけ

 1日の仕事を終え、立花本店から茗荷谷に車を走らせる。昼間に買ったクロワッサンを伊鈴に届けるためだ。


《はーい》

 合鍵でオートロックを解錠して、玄関ドアのインターホンを押せば、機嫌のよさそうな声が返ってきて、心がふっと軽くなる。


「っ!!」
「……煌さん、どうしたんですか?」

 ドアを片手で押さえている伊鈴を見るなり、立花は言葉を失った。太ももを半分だけ隠す、長袖の大きなTシャツ姿だったからだ。

(なんつー格好して出てくるんだ、お前は……。まさか、いつもこんな格好で過ごしているんじゃないだろうな? 配達員やらなんやら、来訪者にもこの格好で……!?)

 普通に出てきた彼女の様子からして、おそらくそうなのだろうと思った立花は、突然伊鈴を室内に押し込んで玄関に入った。

(こ、煌さん!?)

 うっすらと頬を染めている立花の様子に、今度は伊鈴が驚いている。

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