願わくは、雨にくちづけ
「あっ、これですか? クロワッサン」
「あぁ……うん」
立花が持っていた紙袋を見て、伊鈴が瞳を煌めかせる。評判のいい店のものだと聞いて以来、楽しみにしていたのだ。
「少し上がっていきますか?」
「そうさせてもらおうかな」
彼の返事を聞いて、ますます機嫌をよくした伊鈴は、くるりと背を向けて室内へ入っていく。
先に寝支度を済ませたようで、なびいた髪からシャンプーの香りが漂った。
(本当にいつもこんな……。ダメだ、ちゃんと言っておかないと)
立花は10畳ほどのリビングに通され、ソファにゆっくりと腰を下ろした。
伊鈴の自宅に来たのは、これが2回目。
普段は彼の自宅で逢瀬を重ねることが多いこともあるが、たとえ恋人であろうとも、女性の自宅に上がること自体、彼はできるだけ避けているのだった。
「コーヒー淹れますね」
「いや、いい。長居はしないから」
せっかく会えたのに、すぐに帰ると言われて、伊鈴は寂しさをありありと顔に出した。