願わくは、雨にくちづけ
――5日後の20時前、立花はタクシーで新橋にやってきた。今夜は弟の樹と会う約束をしている。
待ち合わせた店に入って、先にビールを頼んだ。
【引越しの日取り、いつがいいですか?】
伊鈴からのメッセージをすぐ確認して、【週末だったらいつでも大丈夫】と返した。善は急げと、早速荷物を纏めている彼女は、業者も手配している。
愛してやまない伊鈴との未来は、考えるだけで楽しみしかないのだが、あの代官山のベーカリーのことが気になっているせいで、どうにも落ち着かないまま過ごしてきた。
常連らしい八神夫人だって、別の場所で再オープンしたら買いに行くと断言していたのだから、それでいいのかもしれないが、店主の涙には希望など全く感じられなかったからだろう。
「悪い、遅くなった」
「俺も来たばかりだよ」
少し遅れてスーツ姿で現れた樹は、カウンターに着物姿の立花を見つけるなり、隣の椅子を引いて腰を下ろした。