願わくは、雨にくちづけ

「夜はどこかに食べに出ますか?」
「いや、伊鈴の手料理がいいな。俺の好きなものを作ってよ」
「はい」

 近くにも洒落た店はたくさんあるが、それよりも自分の手料理がいいと言われた伊鈴は、嬉しくて彼にもたれた。

(さすがの煌さんも、プレゼントを用意してるのは気付いてなさそう。この後も家で過ごすなら、渡すタイミングもあるし……)

 飾り付けや旅行の手配はできなかったけれど、伊鈴は密かにプレゼントを用意していた。
 仕事帰りに百貨店の和装店で、京扇子と羽織紐を買い、キッチンの棚に隠してあるのだ。

(喜んでくれるといいなぁ)

 なにも知らない立花の横顔を眺めながら、伊鈴はわくわくする気持ちが顔に出ないように努めた。


 それから10分ほど経った頃、不意にインターホンが鳴った。


「私、出ます」
「いや、いいよ。待ってて」

 もし不審な人物だったら心配だからと、立花が在宅している時は、基本的に彼が来訪者の応対をすることになっている。
 インターホンに出るくらいは平気だと伊鈴が言っても、彼は一向に許してくれないのだ。

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