願わくは、雨にくちづけ

「十河さん、お疲れ様です」
「あ、うん。お疲れ様」

 今秋、中途で入社してきた2つ下の後輩、新井恭介(あらいきょうすけ)が隣の席から話しかけてきた。

 新井は26歳で、健康的にほどよく日焼けした肌が印象的な男性社員。
 くりくりの二重の瞳に、品のいい鼻筋、笑顔を見せると覗く八重歯がかわいらしいタイプだ。
 とはいえ、高身長で高学歴の彼は、早くも社内で人気があり、日頃から女性社員を交えてランチに行ったり、飲みに出ているのを小耳に挟んでいる。


「今日、飲み会に出れますか?」
「あれ? 予定されてた?」
「突然なんですけど、上司抜きの気楽な感じで、俺の歓迎会をしてもらえることになったんです」

 彼が配属されてすぐに、部で歓迎会はしたが、確かに上司や関係する他部署の社員もいて、彼はだいぶ気を使っていたようだったと思い出す。

(今日は特に予定もないし、煌さんも忙しいみたいだから、1次会に行くだけならいいかな)

 日々、新井には仕事を教えることもあるし、物流業界からやってきた彼の経験談はなかなか面白いのだ。

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