願わくは、雨にくちづけ
社屋を出たところで、手にしていたスマートフォンが震えた。
【お疲れ様。気を付けて行っておいで。帰りにまた連絡ください】
立花からメッセージが返ってきて、ホッとする。
(やり取りするだけで、なんだか安心しちゃうなぁ)
彼から送られてくる文字には、温度を感じられる。
こんな関係がいつまでも続くことを彼女も願ってはいるが、会うたびにプロポーズのような甘い言葉を聞かされ、返事ができないでいるのが心苦しくも思っている。
(煌さんの奥さんになるなんて、まだまだ早い気がするし……。五代目の妻に見合ってないんだもの)
彼には打ち明けていない理由を反芻しながら、新井の後ろについて歩いた。
最近増えてきた肉料理が中心のバルで、先に来ていた同僚が集まる席に混ざる。
伊鈴の隣には新井が座り、一緒にメニューを眺めることになった。