願わくは、雨にくちづけ
「十河さん、今日香水違うんですか?」
「香水はつけてないけど……」
「そうなんですか? なんか上品でいい匂いがするなぁって、今日ずっと思ってたんですよね」
ドリンクメニューに目を泳がせる。
まさか、新井がそんなことを考えながら、隣で1日過ごしていたなんて思いもしなかったからだ。
(あっ、もしかしたら、煌さんの家から来たからかも……)
立花の家や車内、ベッドや服に至るまで、ほんのりと漂っている白檀の香りが移っているのかもしれない。
そう思ったら、離れて過ごしていても一緒にいる気がして、幸せな気持ちになった。
「香水じゃないなら、なんですかね? 最近気づいたんですよ、十河さんの香り」
「やだなぁ、新井くん。そんなこと気にしなくていいのに」
「……もしかして、彼氏さんの香水とか?」
それ以上の追及を避けたはずが、新井の鋭い勘に追い詰められた。
「1杯目はビールでしょ? 食べ物どうする? 大体のメニューが2人前からみたいだよ」
「へぇ、そうなんだ。彼氏さんの匂いなんですね、これ」
伊鈴の問いかけをまったく無視する新井は、途端に不機嫌をあらわにする。