願わくは、雨にくちづけ
(昨日の煌さん、本当にオオカミみたいだったなぁ。すごくセクシーで、ドキドキさせられちゃったし)
思いがけず昨夜を思い出していた伊鈴は、ふと隣からの視線に気づいた。
「十河さんは、昨日なにしてたんですか?」
「その時間は出かけてたから、テレビは見てないんだ」
「……デートだったんですね」
またしても、伊鈴の答えにムッとした新井に戸惑いを隠せなくなる。
なぜ、彼の不機嫌を誘ってしまっているのかも、彼が自分のことで機嫌を悪くしているのかもわからないのだ。
「新井くん」
「なんですか?」
「うぅん、なんでもない。仕事、楽しい?」
「十河さんが教えてくれるので、最高に楽しいですよ」
「そっか……うん、よかった。安心した」
前向きな返事だったのに、新井は不機嫌を伊鈴だけにぶつけ、他の同僚にはいつも通り振る舞う。
(新井くんって、もっとわかりやすいタイプだったはずなんだけどなぁ)
その後も、立花の影が見えると不機嫌になる彼の心中が見えなかった。