願わくは、雨にくちづけ

 21時になり、1次会が終わった。
 飲んでいる間に、また雨が降りだしたようで、傘を差して店の前で同僚が揃うのを待つ。
 終日、小雨が降ったりやんだりしていたけれど、この時間になって雨脚が強まってきた。

 自他ともに認める酒豪の新井は、来た時となんら変わらない様子で同僚と話しながら出てきた。
 しかし、今夜を境に、伊鈴の中で彼を見る目が変わったことは、きっと誰も知らない。

 不意にバッグの中でスマートフォンが震えた。


《――もしもし、伊鈴? 今、話せる?》
「大丈夫です。ちょうど飲み終わったところです」
《どこの店?》

 同僚の輪から少し外れ、傘の中でこっそりと立花と話す。


「会社の近くです」
《もう帰るなら、雨も強いし、車で送るよ》

(煌さん、優しいなぁ。仕事で疲れてるはずなのに、気遣ってくれるなんて)

「駅が近いので、大丈夫ですよ」
《そうか? これからが本降りになるみたいだけど》
「平気です。帰ったら連絡……わっ!!」

 突然、伊鈴の傘に新井が入ってきて、スマートフォンを耳に当てたまま大きな声を出してしまった。

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