願わくは、雨にくちづけ
《伊鈴、どうした?》
「十河さん、2軒目行きましょうよ。俺とふたりで」
「えっ!?」
《……今すぐ行くから、会社で待ってなさい。わかった?》
「あ、あのっ、煌さん」
いつも以上に冷静な立花の声に返事をしようとしたら、新井にスマートフォンを奪われ、勝手に切られてしまった。
「今の、彼氏さんですよね? 宣戦布告させてもらったので」
「宣戦、布告……?」
「俺、十河さんのことが好きです。もしかしたら、彼氏さんよりもずっと幸せにできるかもしれない」
新井はそう言い残すと、他の同僚たちの元へ戻っていった。
――15分ほど経って、会社の入口で待っている伊鈴の元へ、立花の車が横付けした。
(さっき、私が切ったわけじゃないって分かってくれてるかな……)
今までこんなに気が重かったことはない。
こうして迎えに来てくれた時も、予定外に会えるのが嬉しくてたまらなかった。
運転席からすぐに降りて、助手席にエスコートする立花の顔色をうかがう。