願わくは、雨にくちづけ

「酔ってはなさそうだね」
「うん。そんなにたくさん飲んでないから……」
「そうか」

 いつもと変わらないトーンで話す立花の心中が見えず、伊鈴は気まずさと一緒に乗り込んだ。


「ちょっと話せる?」
「はい」

 車を出してすぐ、立花が話を切り出した。


「俺の家でもいい?」
「……はい」

 運転しながら話すようなことではないのだろうと察した伊鈴は、真剣な面持ちでハンドルを捌く彼の横顔を見つめた。

(煌さん、本当は怒ってるんだろうな)

 今まで、これといって喧嘩してこなかった二人にとって、初めて気まずい沈黙が流れていく。
 行き交う車両が、アスファルトの轍に溜まった雨水を掻き乱す音ばかりが聞こえる。

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