願わくは、雨にくちづけ
「焙じ茶淹れるけど、飲む?」
「はい」
キッチンに入った立花は、ケトルで沸かしたお湯を急須に注ぎ、湯呑みと一緒に盆に乗せて持ってくる。
隣に腰かける彼が作った、焙じ茶を注ぐまでの30秒ほどの沈黙に耐え切れなくなった。
「……煌さん」
「なに?」
「……さっきのこと、ごめんなさい」
少し話そうと誘った立花は、伊鈴の素直さにホッとした。
彼女が浮気をすることはないと分かっている。そもそも出会ったきっかけが彼女の失恋で、裏切りの罪深さを身を以て知っているからだ。
だけど、目の届かない環境にいる間は、彼女を信じるしかない。
(さっきの男は、伊鈴の同僚だよな)
頭を下げたまま、立花の返事を待っている伊鈴を見つめながら、冷静に考えを巡らせる。