願わくは、雨にくちづけ

 銀座の立花本店の前に車を停めると、彼はすかさず助手席のドアを外から開けて、手を差し出す。


「どうぞ」
「ありがとう」

 膝の上に置いていたバッグを彼が持ち、そっと伊鈴はアスファルトに足を下ろした。

 どんな場面でもエスコートするのは、立花にとって日常的なことだが、彼女はその特別感に心がくすぐられる。
 言葉だけではなく、彼がしてくれることはすべて、大切にされていると伝わってくるからだ。

 後部座席から上着を取って羽織ると、車をロックして彼女の背中に手を添えて歩き出す。

(今日の煌さん、別人みたい)

 凛とした着物姿も、親しみやすい雰囲気の普段着姿も好きだけど、スーツ姿は見慣れないせいでいちいち胸の奥が高鳴る。
 行き交う女性が目を奪われてしまうのも納得せざるを得ないし、今日の彼はクールで素敵という言葉でも持て余してしまうほどだ。


「食べたいものはある?」
「なんでもいいの?」
「もちろん。我儘を言って、俺を困らせてごらん」

 1年前にも聞いた立花の言葉は、伊鈴を甘やかすだけなのに、彼はそれを喜んでいるようだ。

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