願わくは、雨にくちづけ

「……煌さんはなにが食べたい気分?」

 車道側を歩く彼を見上げて問いかけると、眼鏡の奥の瞳が綺麗に細められた。

(今日の伊鈴は、いつにも増して最高にかわいいなぁ。今すぐ家でもホテルでもいいから連れ込んで、愛し尽くしたいところなんだけど)

「伊鈴が食べたい」
「っ!!」

 周囲の視線などまったく気にせず、またしても不意を突いて彼がキスを落とす。


「わっ、私は食べられません!」

(こんなところでキスされたら、ドキドキで心臓が爆発しちゃいそう)

 スーツ姿に眼鏡をかけた自分に、初デートのようなぎこちない反応をする伊鈴をからかってみたくなった立花は、彼女の耳元にそっと唇を寄せた。


「じゃあ、デザートに伊鈴を食べていい?」

 甘やかで低い声が鼓膜を震わせ、背筋を快感が走り抜けたようだ。
 伊鈴は、途端に耳先まで赤く色を変えて、俯きがちになる。


「美味しくないですから」
「そんなことないよ。甘くてやわらかくて、とろっとろに溶けて美味しい」

 言い返すものの、恥ずかしくなる一方だ。
 伊鈴は「お鮨がいい」と、ひとつめの我儘を伝え、これ以上を避けた。

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