願わくは、雨にくちづけ
(よくもまぁ、あんなキザなことをしたもんだ……)
あの夜の自分は自分じゃなかったと思いたい。それほどに、時間が経っても恥ずかしい。
立花は薄らと頬を染めつつ、とりあえず頼んだお造りをあてに、ノンアルコールビールを飲む。
――〝泣いているあなたをひとりにできるほど、冷たい男にはなれません〟
(きっと伊鈴もまだ覚えてるよなぁ。なんであんなこと言ったんだろう。もっと普通に引き留める言葉はあっただろうに。雨のせいか、それとも伊鈴があまりにも儚げでかわいかったからか……)
「煌さん、それノンアルコールですよね?」
「ん? そうだけど」
「顔、赤いですよ? 具合でも悪いんですか?」
何の気なしに、伊鈴は彼の身を案じて、じっと見つめてくる。
(大丈夫かなぁ。ここのところ忙しかったみたいだし、本当は無理させてるのかな)
まさか1年前のことを思い出し、立花が自分の言動で赤面しているとは思いもしない彼女は、持ってきていた扇子でそよそよと扇ぎだす。