願わくは、雨にくちづけ
紅藤色の女性物の京扇子は、伊鈴の手にも収まりがいい。
縁起のいい鶴が数羽描かれていて、扇ぐと今にも優雅に飛んでくるようだ。扇骨が長く、華奢な印象で彼女によく似合っている。
「いい扇子だね」
「この前、外回りの合間に寄った百貨店で買ったんです。煌さんといるなら、これくらいは持ってないといけないかなって思って」
思いがけず、伊鈴がプロポーズの返事を匂わせたようで、立花はドキッとする。
「ありがとう。もう大丈夫」
「無理しないでくださいね?」
伊鈴が扇子を丁寧に畳み、バッグにしまう。
「わかった。でも、どこも悪くないし、元気だから気にするな。ちょっと暑かっただけだと思う」
それならいいけれど、と伊鈴は微笑みを返事代わりにして、お造りのカンパチに舌鼓を打つ。
(本当に美味しいなぁ。煌さんも一緒だし幸せ……)
美味しそうに食べる伊鈴が、満面の笑みで隣にいるだけで十分幸せだと、立花も感じていた。
そして、プロポーズの返事を急かすよりも、今はこうして少しずつ幸せを積み重ねていく方が大切なのかもしれないと思った。