願わくは、雨にくちづけ
(さすが煌さん。どんな服装にも合うなぁ)
洗面室から出ようとしたら、ちょうど立花が入ってきた。今日は抹茶色の羽織と絹鼠色の着物姿だ。
「その着物、1年前に着てたのと同じ?」
「よく覚えてたね。これは先代から受け継いだものなんだ。この羽織、うちの暖簾と同じ色だろ?」
まさか伊鈴が覚えていたとは思わず、立花はヘアスタイルを整えながら鏡越しに微笑んだ。
ホテルを出て、近くの店で日本料理を食べ、再び戻ってきたのは22時前。
徒歩圏内だったので、今夜は立花もお酒が入っている。
「まだ時間もあるし、バーに寄っていかない?」
「はい」
明日はチェックアウトをしなくてはいけないが、休みを取っているのでゆっくり過ごせることには変わりない。
それに、ホテルを出たら立花の自宅に泊まり、火曜の朝は社屋前まで彼が送ってくれることになっている。
宿泊している部屋よりも、さらに上階にあるバーラウンジの前に着くと、小気味いいジャズが聞こえてきた。
ビシッとスーツを着こなしたスタッフが、夜景が一望できる窓際の席へと案内してくれた。