願わくは、雨にくちづけ
プロポーズの返事よりも、先に知るべきこととはなんだろう。
伊鈴はまったく思い当たらず、小さく首を傾げる。
「立花家は、本来四代目で終わるはずだったんだ。今も先代は現役だけど、歴史は潰える予定で、家族も従業員もみんなそれを受け入れるしかなかった」
「……どういうことですか?」
「先代と女将さんの間には、跡取りがいなかったんだ」
「えっ!?」
(でも、煌さんが五代目だって……)
彼がそんな話をする訳が分からず、伊鈴は動揺のままに口元に手をやって思案した。
「俺は、もともと立花家の人間じゃないんだ。朝比奈家――朝日屋パンの跡取りになるはずだった」
「……朝日屋パン!?」
朝日屋パンと言えば、国内最大手で歴史ある企業だ。
コンビニやスーパーでも取り扱いがあり、ベーカリーなんかもチェーン展開していて、品質も味も商品の供給も安定している。
もちろん伊鈴も食べ慣れているし、幼い頃の記憶を辿れば、最初に食べたパンが朝日屋のものだった可能性がある。伊鈴の実家の食卓には、いつも朝日屋の食パンがあったからだ。