氷室の眠り姫


しばらくすると光は徐々に収まり、静かな空間の中で柊と流はその場に佇み、そしてすっかり元の姿に戻った紗葉が未だ眠っていた。

「父上!紗葉は!?」

医師を連れて戻った樹は氷室の中の光がすでに消えていることで焦りを見せた。

「大丈夫だ。症状は落ち着いている」

そう言うと、柊は樹が連れてきた医師に視線を移した。

「かなりの力を消耗して眠りについているのですが、他に異常がないか診ていただきたいんです」

一族の一人ということもあり、紗葉の能力について言及することなく紗葉の体を確認していく。

「…ここで診るだけでは詳しく判断できません。ですが、特に異常はみられません。おそらく眠っておられるだけかと」

その診断にその場にいた三人はホッと安堵の息をもらした。

「この場所が今の紗葉様にとってどういう意味を持つのか存じ上げませんが、柊様が問題ないと思われるのでしたら寝室へ移されるのをお勧めします」

「……というと?」

「この場所は冷えすぎです。通常の医学から考えれば、あまり体によろしくないかと」

尤もな意見に柊は素直に頷いた。

「確かにそうだな。いや、来ていただいて良かった。我々も常にない事態に動揺してしまった。感謝します」

「いいえ、微力ながら何かあればお力になりたいと思います。本日はこれで失礼いたします」

にっこりと微笑むと医師は風音に見送られて屋敷を後にした。



未だ眠る紗葉は流により壊れ物のようにそっと抱き上げられ、寝室へと運ばれた。

「流、これからのことで話がある。紗葉のことは風音に任せてこちらに」

「…はい。風音、頼むな」

「かしこまりました」

流はそっと紗葉の髪をすくと部屋を後にした。

「父上、紗葉は本当に大丈夫なのでしょうか?」

未だ目覚めぬ紗葉に樹は心配で仕方ない。

「断言はできないが、これまで力を使った時と同じ状態まで戻っているようだ。おそらくそれほど眠りも長くはないだろう」

柊はお茶を一口飲むとホッと息をついた。

「氷室の状態も戻った。しばらく様子を見て場合によってはもう一度、氷室で回復を試みよう」

「……そうですね」

樹が頷くと、柊は流に視線を移した。

「流、お前の立ち位置を確認したい」

「立ち位置…ですか?」

質問の意味が分からずに流は思わず眉を寄せた。

「お前は紗葉を諦める気はない、そうだな?」

間違いないので流は力強く頷いた。

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