氷室の眠り姫
更に数日後、流は実家の伝手を頼ってダイオオプサイトという宝石を手に入れた。
深みのある緑色の石で、“道しるべ”の意味を持つ宝石だ。
「紗葉の目覚めの道しるべになるように…」
流は祈りを込めて宝石を紗葉の枕元に置いた。
「…流様、少しお休みになられてはいかがですか?昨夜も遅くまで明かりがついていたと聞いていますが」
風音がお茶を注ぎながら心配そうに話しかけるが、流は気にすることなく微笑んだ。
「大丈夫。仕事柄、徹夜には慣れてるんだ」
「ですが……紗葉様がお目覚めになった時に流様の顔色が優れなければ、紗葉様は気に病むと思います」
もしくは盛大に怒り、説教モードに入るかだが、風音はそこまで言う気はなかった。
「……うん、そうだな。少し眠った方がいいかな」
そう言いつつも、流は紗葉の側を離れようとはしない。
その表情には不安が色濃く浮かんでいた。
「…私が紗葉様を見ています。少しでも変化があればすぐにお知らせします。例え眠っていらしても、叩き起こしてさしあげます」
口調はキツくとも、表情は心配しているものだから流も素直に言うことを聞くことにした。
流が部屋を出ていったのを確認すると、風音は自分の主に向き直った。
「紗葉様、早くお目覚めになってください。屋敷の者も皆、待っているんですよ」
風音の声にも反応することなく、紗葉はひたすら眠り続ける。
「……流様の祈りが届きますように」
風音はそんな願いを込めて、紗葉の枕元にあるダイオオプサイトにそっと触れた。
それから、紗葉の様子を見に来る者たちは皆、宝石に込められた願いに重ねるようにして紗葉の目覚めを祈った。