God bless you!~第11話「ヒデキとハルミ」
★★★右川ですが……こうなったら、いつかみたいに泣け!
週番という地獄。
今週は、あたしと海川が当番だ。
といっても号令掛けるとか、帰る前に日誌を出すとか。
その殆どはそれほど面倒でもない。
放課後、いつものようにアキラんとこに顔を出し、たっぷり課題と嫌味をもらって教室に戻ったら、ちょうど掃除の時間が始まる。
終わる頃になっても、ゴミ箱が誰も捨てに行かないまま残っていた。
いつも周りが、「匠に行かせろ!」と囃し立て、当然のように海川が標的になる……今日も。結果、半泣きでクラスを飛び出した海川を追いかけるついでに、代わりにあたしがゴミ箱を担いで向かうという茶番に陥る。
限りなく残酷なこの世界。地獄だ、地獄。
渡り廊下の向こうから、いつかのバレー女子軍団のTWICE女子があたしに近寄ってきた。
名前は何だっけ?
脳内でググッていると、「これも捨てといて」と、食べかけのゴミを投げて寄越した。TWICE女子は、まだ言い足りない様子だ。さっさと言ってくれ。
「あのさ、沢村とはもう別れたんだよね?」
てか、直球!
「うーん」と、唸る。
どう言えばいいかなぁーと考えた。
普段あんまり話した事の無い子だし、沢村の周りに居る子だから、こういう時はちょっと真面目に答えないといけないかな、と思って。
すると、TWICE女子はイライラしてきて、
「何悩んでんの?それって、まだ未練あるって事?そういうのが迷惑なんだよって。沢村が可哀相。右川ってほんといい加減だよね」
言いたいだけ言って、プイと去っていった。超上から態度で。
こっちの頭の中では、あのTWICE女子が、どうして〝右川〟と、あたしを呼び捨てにできるのか不思議でそればかり考えた。
かなり親しいアギングですら〝右川さん〟だよ。呼び捨てされるほど、あんたと仲良くしゃべってないよ!と腹の中で沸騰、煮えくり返る。
思えば、沢村の周辺はみんなそうだ。スクールカーストの上位にいると信じ込んで、男子も女子も、おまえ!と上から目線、右川!と指を差して、チビチビと他人の欠点をあげつらう。いきなりキツイ。
今更傷つきゃしないけど、そっから先、盛り上がって何かを話そうって気にならないよ。気分悪いだけ。
ゴミ置き場は、当然というか、ゴミしかない。
おや?というか、今日は焼却炉から煙が上がっている。
恐る恐る覗いてみると、タバコの吸い殻がいくつかあった。
ヤラしい雑誌も1冊。ひっそり処分するには打ってつけかもしれない。あたしも小論文を燃やしたいゾ。この焼却炉は、じいさん先生がたまに使ったりするらしいけど、そのうち処分されるはずだ。
あれからの、あたし達。
2人がまた大ゲンカをしたと学校中に知れ渡った。
焼却炉も真っ青の大炎上。
仕方ないよね。あれだけ居る中で派手にやってしまったら。
真木くんは、「まだ1ヶ月も経ってないじゃないですか」と呆れた。
「じゃ僕の友達はどうなんですか」と来たから、「勉強が大変だから」と逃げる。勉強って、言い訳には便利だなーと思った。
「もうっ!何なんですかっ、ここの学校はっ!」と、真木くんはマジギレに展開。何があったか知らないけれど、ずいぶんヤサグレていたな。
〝一緒にいたくない〟
〝付き合うの辞めたい〟
名前こそださなかったけど、アギングを引き合いに出してしまった。
卑怯かもしれない。極悪だ。
2人を疑っている……言いたいのはそんな事じゃない。
2人がそんな事になってないことは充分に分かっている。
たとえそれが事実だとしても、そんな事はどうでもいい事で。
〝一緒にいて楽しい〟
重森の言葉にあった1言だ。
それを聞いた時、これは素通りできないと思った。
あたしは沢村と一緒にいて……楽しいか?
沢村と誰か、を考えてみる。
不真面目でなくて、いい加減でなくて、テキトーでもない誰か。
今回はたまたまアギングに例えただけ。ミノリ、チャラ枝さん、ヨリコ。そんな人はごろごろいる。
沢村は、そういう人と居るほうが楽しいかもしれない。
あたしは自分が楽しくない。沢村といると楽しくない。嫌な事、ばっかり。
付き合う前より、ひどくなった。
それがはっきり浮かび上がった真実だった。
アキちゃんといる時は……楽しかった気がするから、尚の事。
沢村とは、新しい席替えでも1番遠くに離れた。
周りも気を遣ってくれたと思う。ヨリコとか。
これ以降、どんなに席替えがあっても背の高いあいつはいつも後ろの席だろうし、小さいから♪とあたしは前に行けば済む。沢村が後ろで何やってるか、全然見えない。小さいことがこんなにも都合よく役に立つかと感動した。
休憩は松倉のところに行く。「まったくしょーがないね」といつものように背中をド突かれる。別クラスにあんまり入り浸ると、周囲が「別れた別れた」と、いちいちトピックをブチ上げるので、それが鬱陶しい。
ついには、独りで和む事を覚えた。
最近は、武道場脇の隙間通りで和んでいる。
こんな所に人が!と、驚いてくれる人すら通らない。
それだけ、地味~なスポットだ。
思えば、ここは沢村に教わった場所だな。
さすが生徒会の生ける屍。双浜のウンチク大辞典。先生のイヌ。
色々とよく知っている。
あたし達の事は、いつのまにか周りも何も言わなくなった。
またいつものケンカが今回はデカかったな、と勝手に納得して収まるヤツらが多かった気がする。いつまでも面白がるのは黒川ぐらいだ。
そういえば、永田のバカがおとなしい。居るのか居ないのか分かんない。それも、もうどうでも。
心配してくれたのは、アギングとミノリとヨリコと松倉と海川と……友達はたくさんいる。沢村がいなくても、あたしは楽しい。
焼却炉の炎をジッと見ていると、そこへ、チャラ枝さんがゴミ箱を持ってやってきた。かなり重そうだったので、手伝って一緒に入れる。
やっぱりと言うか、「またケンカしたんですかぁ」と来た。
「まぁね♪」と空元気を吹かそう。
今日はこれから文化祭の打ち合わせをやるという。「あたし、アキラんとこ行くから手伝えないよ」と伝えた。アキラまで役に立つとは世も末だな。
そこへ、沢村が来た。
来てしまった、と聞こえた気がした。
何だか、大量の袋を抱えている。チャラ枝さんが気づいて手伝い始めた。
あたしは焼却炉を、ただただ眺める。
沢村に背中を向けたまま、どうすればいいか、正直迷っている。
すると、
「山下さん、うちの塾に来て。来年から専任講師で。おまえ知ってた?」
まるで用意したみたいな台詞だと思った。
チャラ枝さんの手前、返事するよりほか無い。「うん。みたいだね」
素っ気なく聞こえなかっただろうか。そんな事が気になる。
1番の被害者はチャラ枝さんだと思った。ケンカ中なら止めなきゃ満々だったし、仲直りした後なら言うことない。あたしら2人をどう判断すればいいのか決めかねている様子で、終始迷っていた。
沢村はそれ以上何も言わず、行ってしまう。
どんな表情だったかもわからない。ずっと背中を向けてたから。
沢村は普通に話そうとしていた。仲直りに向かおうとして。
仲直りじゃない気がする。それだけは絶対。
その成り行きを見て、チャラ枝さんは、2人にはまだ時間がかかると判断したのか、「それじゃ」と、それ以上は何も語らず去って行った。
それと入れ違いに、誰かがやってくる。それが気配で分かった。
重森だった。
忘れてた。面白がるギャラリーが、もう1人居たな。
いいところに来た、と聞こえた気がした。
こっちは、よりによってオマエかよって感じ。
「今、沢村とすれ違ったけど。もうヨリ戻ったのか」
「さあ」
「阿木って、もう別のヤツと付き合ってるらしいよな」
イライラした。
「アギング関係無いでしょ。もう、いい加減にしてくんない」
「1年生がさ、さっそく沢村に擦り寄ったらしいぞ」
「あ、そ」
「浅枝とかいうあの女、とっくに沢村に食われちゃってんじゃないか」
「うっさいな。あんたに喰われるよりマシだよ」
あたしは焼却炉に手を突っ込んだ。
黒い煙が、もうもうと目の前を膨らむ。
その煙が目に沁みた。熱い。痛い。
こうなったら、いつかみたいに泣け!
あたしは、奥底から真っ黒な雑誌を掴んで振り上げた。
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