エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~

「あの……」

今なら、ゆっくり二人で話せるチャンス。

私はさっきから気になっている“百合さん”について聞こうと思っていたのだけれど、いざ口に出そうとすると、喉が閉じたように苦しくなってしまう。

しばらくまごついていると、いつしか、窓の内側からピアノを奏でる音が聞こえてきた。そういえば、ステージのそばにグランドピアノがひとつ置いてあったっけ……。

「なんでしょう、この音楽」

「たぶんダンスタイムが始まったんじゃないですか? 水野社長は、趣味で社交ダンスを嗜んでいるそうなので」

「へえ……」

興味本位でちらっと中を覗くと、確かに皆自分のパートナーと手を取り合い、思い思いに踊っていた。

さすがセレブ……皆それなりにダンスの経験がありそうな感じで、音楽に合わせてステップを踏んだり回ったりしている。私、バルコニーに逃げてきた正解だったかも……。

感心しながら中の様子を眺めていたら、背後でコツ、とグラスをテーブルに置く音がした。

振り返れば、紳士的な動作でこちらに手を差し伸べる一誠さんと目が合う。

優しい微笑を浮かべた彼は、透き通る低音でこう言った。

「僕と、踊っていただけますか?」


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