エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
「えっ……」

私はその手と彼の顔を交互に見て、ぽかんと呆気にとられてしまう。

踊るって……あなたと、ここで?

「わ、私、ダンスなんか生まれてこのかた一度も経験ないんですけど……」

「僕がリードしますから、大丈夫」

「リードって……一誠さん、ダンス習ったことあるんですか?」

普通のサラリーマンなら、絶対踊れないと思うんだけど……。

「習うというか、幼いころからこういう場に駆り出されることはよくあったので、徐々に慣れたという感じでしょうか」

「幼い頃? 一誠さん、そんなおぼっちゃんだったんですか……」

「その言い方は好きじゃありませんが……まぁ、わりと裕福な家庭に育ったのは事実なので、世間的にはその部類に属するのかもしれません」

苦笑しながら説明してくれる彼だけど、私はものすごく納得していた。

いつも何気ない所作や言葉遣い、それに纏うオーラが上品だと思っていたけど、もともと育ちがいいからだったんだ。

「ほら、巴。ちょうど、曲が切り替わりました」

一誠さんの声に我に返ると、室内から漏れてくるピアノのメロディーが、アップテンポからゆるやかなものに変わっていた。



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