エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
ふう、と息をつき、気を取り直してバッグをつかむ。部長と会社を一緒に出るわけにはいかないので、食事をするレストランで待ち合わせをしている。
まだ仕事中の部長を一瞬だけ振り返って、タイミングよく顔を上げた彼に“先に行ってますね”と視線で伝える。部長の口元がかすかに微笑み、“わかりました”と言っている気がした。
周りに秘密にしているせいもあるけど、社内の人と付き合うって、こんなにドキドキするものなんだ……慎吾も、こういうドキドキに負けたのかな……。
高鳴る胸の裏側で、いまだ元カレのことを考えてしまう自分にため息をついた。
その後、ひとりで会社のビルを出て、彼に指定されたレストランまでの道順をスマホで調べる。
へえ、こんなところにお店なんかあったんだ……まさに隠れ家って感じ。
目立たない場所にあるそのお店に地図上でピンを立てて、スマホを片手に歩き出したその時だった。
「汐月さん!」
背後から名前を呼ばれ、振り返る。そこにいたのは、黒縁メガネの後輩、成田くんだった。
ビルを階段で一気に駆け下りてきたかのように息を切らせていて、仕事で何かあったのかと心配になる。