エリート部長の甘すぎる独占欲~偽装恋愛のはずでしたが!?~
「……部長。見られるとやりにくいんですが」
「あ、ごめん。女性が料理をする姿にはグッとくるものがあるのでつい。じゃあ、僕はパンでも焼きましょうか?」
「お願いします。オーブントースターそこです」
キッチン脇の、収納棚の上を指さして教える。
「了解です。巴は、しっかりきつね色まで焼く派?」
「んー……できれば、ほんのり色づくくらいがいいです」
「あ、僕もです。三分くらいかな……」
部長がオーブントースターに集中し始めたところで、やっと落ち着いて野菜を切り始める。それが済んだらお皿に盛り付け、フライパンでは卵も焼き始めた。
その間に小さなテーブルを拭いたり、箸を準備してくれる部長を見ながら思う。
なんか私たち、めちゃくちゃ普通のカップルみたいだけど……これ、シミュレーションなんだよね。ひと月限定の。そこんとこ、忘れないようにしないと……。
私は気を抜いたら部長と普通の恋愛関係にあると錯覚しそうな自分を、ときどきそう戒めた。