さようなら、初めまして。
モンブランを食べ、珈琲を飲み、店を出た。
ドアまで奥さんが駆け寄って来た。腕を握られた。「待ち合わせ、雨にならならないといいわね。……うちには来てないの、ずっと…あのままなのね」とジンさんには聞こえないように言葉を足された。頷き、有り難うございました、あの時はお騒がせしてしまって…と返した。
今日は有り難う、また来てねと言われ送り出された。
あ、ごめんなさい、お店の前で待ち合わせなんて、と言いながら、また、あー、そうだったと思い出した事があった。

悠人と待ち合わせた時…先に早く着いて、一緒に入ろうと外で待っていたら雨が降り出したんだ。
お店のお客さんに邪魔になってはいけないと思って、傘を広げて、入り口より少し離れた場所で、悠人を待っていたが、時間を過ぎても中々来なかった。
…遅いなぁ。何かあって遅れてしまったのだろうか、そう思っていた。
やがて、慌てて来た悠人はかなり遅れちゃって…私に気がつかなかった。あっという間だったな。店に入って覗いて出てきて走り出したんだ。
悠人、悠人って、呼びながら追いかけた。あ、なんだここに居たのかって。傘に入った。
結局、洋食亭には入らず、そのまま…、歩いていた先、私の部屋に行ったんだ。
…悠人が濡れていたからだ。

私の部屋を見てどんな反応をするのか、ちょっとドキドキした。へえ、面白い部屋に住んでるなって、悠人も気に入って、隣も空いてるなら、俺も住みたいな、それ、面白いだろって言った。
…結局、隣で面白く住む事はなかったけど。

悠人は濡れた体をシャワーで流し、温めた。
私は急遽簡単にご飯を作った。
悠人はその夜、帰らなかった。結局、用意したご飯は食べずじまいで、……夜は明けた。
朝、悠人は帰って行ったんだった。二人で……初めて過ごした夜だった…。

「じゃあ、おやすみ、7時でいい?」

……え?あ、部屋に着いていた。いけない。私、また悠人の事を考えていた。
私…会話はちゃんとできていただろうか。気の無い返事ばかりしてたとか…大丈夫だったのかな。

「明日、大丈夫?」

「あ、はい。えっと…」

「洋食亭の前に、7時」

「はい、大丈夫。あ、ご馳走さまでした、ごめんなさい」

「ん。じゃあ、明日。おやすみ。…ゆっくり休んで、体、休めておくんだよ?」

え?え、どういう意味…。

「何だか、疲れてるみたいだったから」

あ。上の空みたいになってたって。…やっぱり。心配かけちゃったんだ。

「大丈夫…疲れてない。何でもないんです、あの、ごめんなさい」

何でもないっていうなら、じゃあ、何って。嫌々誘いにつき合ったからじゃないかって。思ったかも知れない。
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