さようなら、初めまして。
あー、どうしよう。
昨日とは違って、お店の前だから大丈夫だろうと思って、今日は早くから待っていた。そしたら、雨になった。
夕方の晩ご飯に近い時間帯という事もあって、人が走り込んで来る。お店のドアが開けられる度、カランコロンと休みなくカウベルが鳴った。
営業妨害になってはいけない。そう思って少し入り口から離れていた。

それにしてもよく降る…。ポツ、ポツと降っていたのは降り始めの少しの間だけで、今は差した傘がバラバラと音を立てていた。
雨を凌ぐために入った人が大半なのだろう。取り敢えず的に注文した珈琲を口にしながら、窓越しに空を眺めている人が外からでも目についた。雨だからここにしようかと言ったとしても、きっとここはもう満席だ。

バシャバシャと勢いよく音を立て、また一人駆け込んだ。…あ。ジンさん。声を掛ける間もなかった。
追いかけて中に入ろうと、傘を閉じていたら直ぐ出てきた。

「ジンさ…」

「あ、お、ここに居たんだ。雨だから、てっきり中に居るもんだと思って。足、随分濡れたな」

え?…あ。

「本当だ。跳ね上がったんですね」

ジンさんは…。

「はぁぁ、俺…ビショビショ…。雨、降るなんて言ってなかっただろ?止むかと思って、これでも店の軒先でやり過ごしながら来たんだ。だけど、止むどころか…」

「…あ、はい。…急に、大雨ですよね…」

いつも折りたたみ傘をバッグに入れてあって今日は助かった。それにタオルも。
バッグを探り取り出し、差し出した。

「はい、これどうぞ。取り敢えず、頭、拭いてください」

「あ、あー、有り難う。用意がいいな、何でも出て来そうだな、そのバッグから」

「え?あー、フフ。…心配性なんです。外に居ると色々やらかしちゃって。絆創膏とか、安全ピン…頭痛薬、それに…裁縫セット、ジッパー付きの袋とか、各種取り揃えております」

…。

「フ…ハハハ。それ、一つ一つが、何かあったって事だ。面白いな、面白い言い方だ。あ、靴も入ってたりしてな」

「あ゙、さすがにそこまでは。バッグがドンドン、大きくしないと収まらなくなります。毎日、小旅行になっちゃいます」

あ、…また、やっちゃったかな。

「ハハ、そうだな。……ふぅ」

あ。

「…あの、ジンさん」

「ん?」

ガシガシと頭を拭いて、濡れている肩をパン、パンと押さえていた。

「…うちに、来ませんか?」
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