さようなら、初めまして。
「もらったって…あの…」

未来って、何の事だろう。別の話?

「君をおんぶして走った。思いっきり走った。
誰かは解らない、そういう決まりだ。だけど、…誰かが亡くなったから、俺は前より元気になれた」

……亡くなった…あ、…病気の話?元気になったって、もらったって……臓、器、…臓器提供の事?…え…。

「ジンさんは、あの…」

「食事中だから、あまり……詳しくは。だけど、俺は、ここ、この心臓をもらった」

トントンと叩いて胸の服を掴んだ。

心臓…。心臓の事だ。心臓が悪かったって事…?そんな風には見えないけど。……あ、あぁ、そうだ、今は移植したから元気だって事なんだ。……。この話は…、私の話した事に何か関連してるんだろうか…。

「だから、アイちゃんをおぶって走る事もできた。雨の中を思いっ切り走る事も。昔なら、そんな負担になるような事は…」

ジンさんは日に焼けた顔をしていた。とても健康そうだ。聞かされなければ想像もしなかった事だ。

「重いのに、すみませんでした」

「いや、そんな事はなかった、楽勝だったよ?どこまでも走れそうだった。それに俺から勝手にしたことだ。……食べ物の好みも変わった気がするし。今、関係無い話だったね。好きな人が居た、と聞いて…俺は。
………なんて言うか…、ドキドキしたんだ」



「ここって、心臓なんだから、動いてる、ドキドキしてるのは当たり前で、だけど、それとは違うんだ。……アイ…」

えっ?…アイって、…また呼び捨て…。時々、何の抵抗もないみたいに呼ぶ。

「君を見た時、何だか解らない…。だけど、半端なくドキドキした…見つけた、と思ったんだ。今まで自分が感じていた、苦しくて辛い、っていうのとは違う胸の痛み…」

…な、…え?

「あ、こんな事を言って、似てるっていう、不思議な事に格好つけて、口説いてる訳じゃないから。…違うか……参ったな…。何て言うか…、そんな…、理屈とかじゃなく、確かに、衝動みたいなモノって、あるんだなと思って。
……それで、結果、こんなに誘ってる」

「え?」

「俺みたいな奴は駄目かな?」

「え?」

「あー、ハハ。驚くよね、よく解らない話だし、いきなりだから。
俺、アイちゃんの彼にはなれないかな」

「え、あ…あの」

…アキちゃん…。友達なんかじゃなかった。…告白されてる、私。…どうしたら…どうしよう…。

「んー、俺の事、何も解らないから、そんな事、急に言われても困るよね、強引で変な奴だし、第一得たいが知れない。アイちゃんからしたら…」

「あ、あ、…。しゃ、写真、写真撮ってください!」

「ん?え?」

あ、私、焦って…。話を遮って、何、すっとんきょうな事言ってるんだろう。

「あ、違…、友達が、友人が、親切な人、助けてくれた人、どんな人ってずっと知りたがっていて。私、説明が上手く無くて。顔くらい知りたいって」

あ゛っ、何言ってるんだか…。テンパり過ぎ、落ち着け…。顔って…もう…。

「あの…」

変よ、いきなり変な事言い過ぎた。告白の言葉に困って誤魔化したみたいになった。

「フ。いいよ、撮ろうよ」

「え゛?」
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