さようなら、初めまして。
私…、何もまだ知らない。
ジンさんの事、何も。連絡先だって、お互いに知らない。このままだと…。ジンさん…。
突然会えなくなったら…嫌だ。恐い…。

「…ジンさん」

呟くように声に出して呼んだ時には、ジンさんはもう遠くなっていた。

…ジンさん。
約束してて、会えなくなった時はどうしたらいいんですか?
もし…好きで、…大好きになった途端、突然、一人になった時は、どうしたらいいいんですか?どうする事も出来なくて、それっきりになったら、それは、どういう事なんですか?どうなってるんですか?…。

「ジンさん。…ジンさん。……ジンさ~ん!」

声は届かないみたいだった。走った。
歩いて帰ってるなら追いつけるかも。


「…はぁ…ジンさん」

居、た。

「ジンさん!」

「アイちゃん…どうした…」

私の駆け足って、はぁ…遅い。ジンさん、一人だと歩くのが速いんだ。やっと追いついた。数人の目線がこっちに向いたのを感じた。ジンさんは止まってくれた。こっちに来てる。

「どうした…」

「待って、待ってください…はぁ。このまま会えなくなったら。……私…もっと、…もっと聞いて欲しい事があるんです。ジンさん、だから…」

「…アイ。大丈夫だ」

手を引かれ抱きしめられた。あ。どうして…?ジンさん?

「ジンさんは………ジンさんですよね?」

この、ドクン、ドクンと、力強く打っているのはジンさんの心臓だ。

「…ああ」

「でも…私…」

こうして抱きしめられると…悠人みたい。どうしてもそう思うのはやっぱり可笑しいの?どうしても…こじつけたいの?こんな風に抱きしめてくれたのは悠人だけだったから?だから…。

「もし…約束してて、突然会えなくなったら恐いんです。いつものところでって、行って、待ってても、いつまで待っても来なくて会えなくて、そのまま会えなくなったままになったらって、そうなったら恐いんです。
私…あの時も…、出会ってからそんなに日も経って無くて。同じ、同じなんです。まだ連絡先さえ教え合ってなくて。それでも会う約束は出来てたから。会いたくて会ってた。それなのに、あの日行ったらいつまでも来なくて…、最初は遅れてるんだ、また、慌てて来てるんだって思ってた。部屋も知らない、知ってるのは名前だけで。会って沢山話して楽しくて、一杯笑って…次、会う約束をして……。
だから、来なかった時、連絡の取りようもなくて。それで…悠人、それっきり…会えなくて…それっきりに」

今、どうしてるのかも解らない。それっきり…。解らないまま。

「勝手にフラれたのなら、それでもいいんです。でも、そんな急に何も言わずになんて…あるんだろうかって思ったら…。そんな人じゃないと思うから…心配で…恐くて…」

悠人は、悠人の身に、突然来られない何かが起きたんじゃないかって…。

「変な風に想像してしまって…そう思ったら恐くて…」
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