さようなら、初めまして。
「アイちゃん。帰って部屋には入った?」

「え?まだ、です」

何?部屋って…。

「じゃあ、慌てて飛び出して鍵をかけてないとかじゃないよね?大丈夫だよね?」

「はい、開けてない、入ってないです」

あぁ…うっかり開けっ放しにしてないか心配してくれたんだ。

「うん。…じゃあ、俺の部屋に行こうか」

「…え?」

「落ち着いて…話をしよう」

あ。

「俺にもっと、その話をしたいと思うなら、…行こう」

体を離して手を握られた。

「アイちゃんが不思議だと思う事のすり合わせだ」

すり合わせ?

「もしかしたら、と思ってる事を、アイちゃんが納得出来るように…いや、出来ないかも知れないけど、会う度、感じた事心に思った事全部…話して欲しい」

それは…。首を振った。

「私が言った事、…何もかも、きっと私…思い込み過ぎておかしいんです。ただそれだけだと思います。ジンさん…連絡先を教えてもらっては駄目ですか?それだけでも安心というか…」

「ん…俺、仕事では会社の携帯を使う。だけど、プライベートでは携帯は持たない。持たなかったんだ。教えたくない理由に、持ってないって、嘘だって思う?
変人?今時あり得ない?携帯を持つ事は常識?義務?
…変わってるだろ?本当に持ってないんだ。
縛られたくないんだ。って言ったらカッコつけてるけど。わがままだろ?人には無理に約束を取り付けて来させるのに。相手が用が出来て来られなくても連絡できないよね。だから…そうなったら俺はひたすら待つ。会って費やすはずだった時間の分くらいは待ってる。…過ぎる時間は、同じ事だから。まあ、今までそんな事は無かったけど。だけど、さっきアイちゃんが言ったみたいに、約束していて、もし俺に突然何かあって、約束の場所に行けなかった時は、迷惑も、心配もかけてしまう訳だね。今までみたいに我が儘を通してる訳にはいかない。だから、今は、俺の部屋を知っておいてもらう事くらいが、俺を知る事になるのかな。
次の約束、もし、俺が現れなかったら、部屋に来てみてくれたら、多少は原因が解るかもって、ね」
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