さようなら、初めまして。
…もしかして、悠人も携帯を持つ事を嫌っていた人なのかも知れない。私も私から教えてもなかった…。まだお互いに、単に聞いてなかっただけとも思える。
…あ、また私は…悠人とジンさんを同じように考えようとして…。

「どうする?部屋には行かない?話はしない?」

「私…もう…会っちゃいけない気がします」

「…忘れられない?」

首をゆっくり振った。ただ忘れられないとは違う。このままだと、きっと…ジンさんに悠人を重ねて思ってしまう。似ている。そんな理由で、惹かれて…好きになってしまったら…いつまでも悠人を思って、それは…ジンさんを蔑ろにしてしまう事になる…。例え、悠人との事が、思い出として落ち着いても…ジンさんと居たら…。こんなきっかけだと、どうしても悠人を思ってしまう。追いかけて来て、引き止めて、その行為は…何かを期待させてしまっただろうに、その答えがこんな話なんて…。でも。

「アイちゃん?」

「話は、もう、ありません。ごめんなさい…今まで沢山の親切、有り難うございました。日曜の約束はキャンセルをお願いします。ごめんなさい。
追いかけて来て中途半端な話をしてごめんなさい。おんぶしてもらった事…ご飯も、ブランコも、靴下も、ランプも、全部……ドキドキして…嬉しかったし、楽しかったです、有り難うございました」

手を離した。
悠人が過る以上、好意を持ってくれているジンさんとはこれ以上は駄目だ。

「俺は待ってるよ」

え?何を待つの?

「ケーキを食べに部屋に行く事はできない。でも、俺は待ってる。勝手に。自分の意思で毎日待ってるから」

毎日…。

「それはしないでください。行きませんから」

「解ってる」

…。

「解らない事は、はっきり解らないんだから、それでいいじゃないか。…普通にフラれたと思ったら駄目なのか?知りようがないんだろ?…事実はそうかも知れないだろ?……何か、…そうじゃないかと思ってる事、それだって曖昧だ。こじつけだ。確証は無い。思い込めばそういう風にしか思えなくなる。それは仕方ない事だ。
似てるって言うなら似てるってだけの事だ。それを…同一人物のように考えても、俺は俺だ。アイちゃんの思ってる事…多分、この心臓の事。もし、会えなかった理由…この心臓が悠人という人のモノだとしても、俺は俺だ。
…心臓がアイちゃんを求めてドキドキしても、求めているのは俺だ。俺がアイちゃんを求めてるんだ」
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