さようなら、初めまして。
「…じゃあ」

「あ、はい、…有り難うございました」

「…うん。…じゃあ、さようなら、だな」

「え」

「ん?もう会えないだろ?俺も、もうあそこには行かないから。しつこくて、あの道、通りたくても通れなくなるだろ?偶然はもう無いよ。…じゃあ。あ、アイツには気をつけてね。って言っても…どうにも…か」

「大丈夫です…おやすみなさい」

行かなければ会わない。

「あ、うん、おやすみ…」

さようならって…。時間がない、て言ってた。それって。…会った時から、そんな感じの事、言ってた…。

「あの、どこかに、行くんですか?」

立ち入った話だ。引っ越すとか…、凄く遠いところに行ってしまうのだろうか。それがずっと…?。

「…だったら?」

…だとしても関係ない、て言われてる。そうよね。私…なんでもない、赤の他人…。

「聞いて知ったところで、だよね。今の感情…それは一時的な感情だよ。すぐ忘れる」

…会えなくなる。そうなら寂しいとは思う。きっと。…寂しい。それは、…一時的なモノ。

「…じゃあ」

あ。帰ってしまった。
…そうだよね。寂しいですって、言っても…しようがない。だって…。
私は気持ちに応えてない。そんな立場で、どこかに行くなら行かないで、なんて、言えない。………え…?あ。

「待って!」

追いかけた。

「ジンさん!行かないで」

「アイちゃん……アイ!」

「は、ぁ…ジンさん、…行かないで?…駄目。行っちゃ駄目。…嫌」

振り向いた胸に飛び込んだ。

「…どこにも行かないよ?」

「……え」

「あー、バイト、終わったから。ていうか、目的が終わったから、もう時間がないんだ」

「え?どういう意味…ですか?え?」

「んー、まあ、自由に出来る時間がなくなる?って事かな~」

「え?」

「狡かったかな…言い方…。聞きたい?」

「あ。…」

どこかに行ってしまうんじゃないの…?

「聞きたいなら、今度こそ部屋に連れて行くよ?」

「…聞きたいです」

「うん、じゃあ、行こうか。あ、部屋は?最初に出た時、ちゃんと鍵はした?」

「…あっ。えっと、大丈夫だとは思いますが、記憶が…」

慌てていた。訊かれると自信がなくなる。

「じゃあ、戻ろう。何かあったら大変だ」

「はい」

「話はゆっくり出来るから。慌てなくても心配ない…だろ?」

「は、い」

でも…、まだよくジンさんが解らない。
< 49 / 91 >

この作品をシェア

pagetop