さようなら、初めまして。
「鍵、してあって安心したよ。さあ、入って」

「あ、はい…」

家まで帰って施錠を確認して、そしてジンさんの部屋に…来た。

意外だ、と思った。これは、シンプル。…ミニマリスト?凄く整然としてる部屋だった。必要最低限の物しかないように見えた。

「あー、なんかある意味寒々しい部屋だろ。珈琲でいい?掛けてて。
洋食亭で、デザートし忘れちゃったから、…これも、食べよう」

モンブランだ。買い置きしてあったのだろうか。冷蔵庫から箱を取り出した。

「はい。あの…」

「まだちょっと待って。疑問は色々あるだろうけど、話はまだ。…後で」

「あ、は、い」

出して貰ったモンブランと珈琲を口にした。

「あー、ごめん。オムライスも、残したまま帰って来ちゃったね」

「…はい」

それは仕方ない。あの雰囲気…、居てもきっと箸は進まなかっただろうけど。

「返事はうん、だろ?」

「え、あ、はい、うん、…そんな雰囲気じゃなくなったから…」

「うん、悪かったよ、…我が儘な子供みたいな事。ごめん、雰囲気悪くして。…素直に話を聞き続けていたら良かったんだけどね。あの時は無理だった」

「…うん。私が悪いんです。ごめ」

「待った、ごめんはもういいだろ。今のアイちゃんだと何度も話す度繰り返す事になるから」

「あ、…。はい」

…ごめんなさい。

「…無理にとは言わないよ。俺の事はいい人、くらいでもいいよ。ただ、嫌わないでくれたら、それでいい」

「嫌いだなんて…。それはない、です」

「うん、だったら、つき合っていこう。そんな感じでいいから」

…。

「何でもいいよ。知り合い?友人?顔見知り?…恩人。ハハ。とにかく、俺は会いたい。…一緒に居たいんだ。あ、また、気持ち悪い男に逆戻り?こんなに押しつけてばかりじゃ嫌でも嫌って言えないよな」

「気持ち悪いだなんて、それは無いです」

「意識、し過ぎ。構え過ぎ」

「え?」

少し距離を取って隣に座っていたジンさんは頭の後ろで両手を組み、そう言った。

「そりゃあ、俺は好きだよ?それは俺は意識する、凄くする。だけど、アイちゃんは意識しなくていいよ、そのままで。…何も、複雑に、難しく考えないで、自然でいいから」

「でも…」

ジンさんの気持ちはこうしてまた聞いてる…。

「さっき、俺に飛び込んで来ただろ?」

「あ、あれは…」

追いかけてしまった…。

「一時の衝動だったかも知れないけど、俺は嬉しかった。それでいいんだ、…よく解らなくても、今は…」
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