さようなら、初めまして。
「あ、俺、メモにも書いたけど、いちかみまことって名前だ。だから、ジン」

「あ、ジンさんのジンは、神のジン、だったんですね」

「そう。字を書いて言われると解り易いだろ?誠の方で呼ばずに、何だか知らないけど神の方で呼ばれて…」

一神ってインパクトがあるから。だから、みんな神の部分、ジンって呼びたいのかも。

「呼び易くて、より親しみがあるのかもです。私は、逢生。結木逢生です。漢字は…」

はい、と、キャビネットの上からメモ帳を取ってくれた。
お礼を言ってペンを抜いた。

「こんな…字です。あ、携帯は、…これが番号です。……はぁ」

「…有り難う」

書いたメモ帳から捲って取る事はせず、ジンさんはそのままテーブルに置いた。

「いいえ。これ……、最低限の情報、ですよね…」

悠人とも、最初に交わしておけば良かった…。はぁ。そしたら。

「安心した?」

「…え?」

「そういう事だろ?俺の事、少しは知って。いざという時、連絡取れるから、確認出来る。まあ、俺はそれ程の存在でもないだろうけど…」

「安心しました」

何もないだろうけど、もしもの時はこれで確認出来るようになった。

「あ。…俺は、取り敢えず、最初に逢生ちゃんの部屋は知ったから、何かあったとしても、何とか出来てたよな」

私に何か?て事。

「そうですね」

最初に部屋まで来た時、知ったというより、知っていたようにも取れた言動だった、と思う…。これも、何か勝手に…解らないのにそう思い込んだのかも知れない。

「まだそんな相手じゃないけど…一生叶わないかも知れないけど。まだって、希望的につけとく。いつか気持ちが向いてくれること。
あー、ごめん。自然でいいよって言っておきながら、また、ゴリ押しなんてしつこいな」

…。

「聞きたいこと、知りたいこと、何でもいい。他にない?」

「はい、連絡先が解っていればそれだけで…」

今は、大丈夫。

「ぁ…そう、か…やっぱり他に興味はないのかぁ…」

あ。

「そんな…そんなつもりではないけど…今は、徐々に知れたらいいです、…自然に。話してる内に知った、みたいな」

ですよね。…徐々に知るって…会ったり連絡し合わなければ知る事はないのに…。こんな言い方…遠回しに敬遠しようとしてるって取ってしまうかな。

「知ってくれるつもりはあるんだ。ハハハ。……悠人って人の事、話したくなったら、普通に話して欲しい。特に構えたりしないで、自然に口に出たら出たで、無理に止めたりしないで話して。そうする方が逢生ちゃんにもいいと思うから」

…思いを閉じ込めない方がいいって事だ。吐き出した方がいいって。その方が気持ちが軽くなるのは早いかも…。

「ね?その方がいいと思うから」

それは、やっぱり、この先も会おうって事なのかな…。
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