さようなら、初めまして。
「…知ってても、…悠人さんて、呼ぶ訳にもいかず…。でも、…仮にって事で、……ハルって、呼ぶ事にしました」
近い呼び方は隠している罪悪感からせめてもの償い?その呼び方で繰り返し呼ばれたら…、刺激になったかも知れない…。ハル、…か。それ、反って良くなかったんじゃないの?戻らない方が良かったって言ってたでしょ?ハル、ハルって、沢山話し掛けたんだろう…。それに返事をして。…何を、どんな風に世話をしていたんだろうか。……好きだから…過剰に?……。
「何もかも…、突然居なくなったら可笑しいって思われたらいけないと思って…。勤務先には…体調不良から…長期の治療が必要になったと、身内を装って連絡しました。詳しい事は言いませんでした。会いに来られたりしたら困るから。…勝手に…都合のいい事ばかりをしました。
住んでいるところ…賃貸ではありませんでした、…家賃の滞納とかになったら…大変だと思って…確認しに行きました」
はぁ、やるべき事は用意周到にって、……凄い。悠人を知っている人が訪ねた事は…運よくなかったのだろうか。部屋に居なければ、それはそれで、納得したのだろうか。突然の長期療養となれば、深入りはしなかったのだろうか。…携帯は?携帯は持っていなかったのだろうか。…バッテリーもその内切れちゃうか。
「ずっと、付きっきりで?」
そうだと思っても聞いていた。記憶のない人間を一人にはしておけないだろうから。見てないと危ないだろう。
この人は何をしている人なんだろう。元々傍に居られる環境だったという事なのか、それとも、仕事を辞めたのだろうか…。お金に余裕がある人なの?じゃあ、今は?悠人にしてもどうしてるの?元の職場に復帰できたの?…って…聞いてみても…。はぁぁ。
好きなら尚更、悠人を知っている人に、いきなり出くわす事から避けようとしたかも知れない。…自分の部屋に囲い込んだ。…囲い込んだなんて。
悠人の方からだって……徐々に好きになって、そしたら、記憶が戻っても大丈夫だって。……はぁぁ、私は何て…黒い考えを…。
好きになったら、離れたくないって思うのは解る…。この状況で、不意にどこかに行かれてしまったら終わりだ。……どうせなら、このまま記憶は戻って欲しくないって、思うのは現状を壊したくないから思う事。……はぁ、私は…。
「いいえ。体は悪くないですから。…最初は…心配で、恐くて…傍に居ましたけど。ずっとではないです」
…ずっとではない。…それはきっと…悠人と。……完全に心を許してからの事だろう。勝手に出掛けたりしない、安心してからの事だろう。ふぅ。こんな…知りたくもない話を詳しく聞かないと終われないのだろうか…。私が心配で不安で、居ても立っても居られない時、この人は悠人と居た。一緒に生活を……。寝食を共にしてた…。ずっと。
「いつ思い出すか解らない。でも、そうなったら、…その時は、隠してたこと、正直に話そうって。嘘じゃありません。せめてその時まででもって、…ごめんなさい。思い出したら…ぶつかっておいて…大切な記憶を奪ったのに…好きになってしまったって…言おうって。……それで、帰るって言われたら…仕方ないって…諦めるつもりでした」
…失った記憶の中で、悠人の中から私も消えた。そして…。貴女との新しい記憶。
帰る事はない、よね。
「……メモ」
「…え?」
「財布の中にあったメモに書いてあったのは、結木逢生さん、貴女の名前でした」
あ、メモ…。ジンさんの時と同じように、私は私の名前を、こんな漢字だって笑いながら悠人に教えた。違ったのは名前だけしか書かなかった事…。ついでに携帯の番号、書いておけば良かった。その時のメモをずっと持っていたのだろうか。
「住所……下にありました。書き足したんだと思いました悠人が…字面が違ったから、男文字、女文字って何となく特徴がありますよね。きっとそうだと思いました」
うちに来た時、正確に住居表示を覚えて帰ってたんだろうか。意味のありそうなそのメモを最初に見た時、アンリさんは直ぐうちに来てみようとは思わなかったのだろうか。でも、来て私に会ったら…悠人は帰ってしまう。それには敢えて目を瞑った…それも気がつかなかったふりをして。……解らないけど。
女の勘?結木逢生は、この人の彼女かも知れないって、思ったのかも知れない。
近い呼び方は隠している罪悪感からせめてもの償い?その呼び方で繰り返し呼ばれたら…、刺激になったかも知れない…。ハル、…か。それ、反って良くなかったんじゃないの?戻らない方が良かったって言ってたでしょ?ハル、ハルって、沢山話し掛けたんだろう…。それに返事をして。…何を、どんな風に世話をしていたんだろうか。……好きだから…過剰に?……。
「何もかも…、突然居なくなったら可笑しいって思われたらいけないと思って…。勤務先には…体調不良から…長期の治療が必要になったと、身内を装って連絡しました。詳しい事は言いませんでした。会いに来られたりしたら困るから。…勝手に…都合のいい事ばかりをしました。
住んでいるところ…賃貸ではありませんでした、…家賃の滞納とかになったら…大変だと思って…確認しに行きました」
はぁ、やるべき事は用意周到にって、……凄い。悠人を知っている人が訪ねた事は…運よくなかったのだろうか。部屋に居なければ、それはそれで、納得したのだろうか。突然の長期療養となれば、深入りはしなかったのだろうか。…携帯は?携帯は持っていなかったのだろうか。…バッテリーもその内切れちゃうか。
「ずっと、付きっきりで?」
そうだと思っても聞いていた。記憶のない人間を一人にはしておけないだろうから。見てないと危ないだろう。
この人は何をしている人なんだろう。元々傍に居られる環境だったという事なのか、それとも、仕事を辞めたのだろうか…。お金に余裕がある人なの?じゃあ、今は?悠人にしてもどうしてるの?元の職場に復帰できたの?…って…聞いてみても…。はぁぁ。
好きなら尚更、悠人を知っている人に、いきなり出くわす事から避けようとしたかも知れない。…自分の部屋に囲い込んだ。…囲い込んだなんて。
悠人の方からだって……徐々に好きになって、そしたら、記憶が戻っても大丈夫だって。……はぁぁ、私は何て…黒い考えを…。
好きになったら、離れたくないって思うのは解る…。この状況で、不意にどこかに行かれてしまったら終わりだ。……どうせなら、このまま記憶は戻って欲しくないって、思うのは現状を壊したくないから思う事。……はぁ、私は…。
「いいえ。体は悪くないですから。…最初は…心配で、恐くて…傍に居ましたけど。ずっとではないです」
…ずっとではない。…それはきっと…悠人と。……完全に心を許してからの事だろう。勝手に出掛けたりしない、安心してからの事だろう。ふぅ。こんな…知りたくもない話を詳しく聞かないと終われないのだろうか…。私が心配で不安で、居ても立っても居られない時、この人は悠人と居た。一緒に生活を……。寝食を共にしてた…。ずっと。
「いつ思い出すか解らない。でも、そうなったら、…その時は、隠してたこと、正直に話そうって。嘘じゃありません。せめてその時まででもって、…ごめんなさい。思い出したら…ぶつかっておいて…大切な記憶を奪ったのに…好きになってしまったって…言おうって。……それで、帰るって言われたら…仕方ないって…諦めるつもりでした」
…失った記憶の中で、悠人の中から私も消えた。そして…。貴女との新しい記憶。
帰る事はない、よね。
「……メモ」
「…え?」
「財布の中にあったメモに書いてあったのは、結木逢生さん、貴女の名前でした」
あ、メモ…。ジンさんの時と同じように、私は私の名前を、こんな漢字だって笑いながら悠人に教えた。違ったのは名前だけしか書かなかった事…。ついでに携帯の番号、書いておけば良かった。その時のメモをずっと持っていたのだろうか。
「住所……下にありました。書き足したんだと思いました悠人が…字面が違ったから、男文字、女文字って何となく特徴がありますよね。きっとそうだと思いました」
うちに来た時、正確に住居表示を覚えて帰ってたんだろうか。意味のありそうなそのメモを最初に見た時、アンリさんは直ぐうちに来てみようとは思わなかったのだろうか。でも、来て私に会ったら…悠人は帰ってしまう。それには敢えて目を瞑った…それも気がつかなかったふりをして。……解らないけど。
女の勘?結木逢生は、この人の彼女かも知れないって、思ったのかも知れない。