さようなら、初めまして。
…お腹が空いた。こんなに時間を取られるとは思わなかった。思わぬ残業に胃袋が飢えきっていた。食べて帰ろうかな。迷った。迷ったけど…。

カランコロン。洋食亭のドアを開けた。

「……こんばんは、オムライスだけ、できますか?」

「あ、アイちゃん、良かった、来てくれて」

「え?…こんばんは…え?」

「いつ来てくれるか、待ってたのよ~」

「え、あ、は、い…?」

熱烈歓迎?実のところ、あれ以来、来辛くて遠退いていた。だから…迷った。だって、悠人と話して、ジンさんが来て、そして、アンリさんとの話だ…。隠せないほど事情は知られてる。私はどん底に居る人間だと思われているかも…。

「来て」

「え、あ、はい」

「あぁ、落ち着いて、私がドキドキしちゃってどうするのよ、ふぅ。あのね、アイちゃん。あの日、あの後、預かった物があるの。ちょっと待って。
あなた、アイちゃんに。そこの引き出しから、うん、それ、…有り難う」

カウンター越しに奥さんがご主人に取り出させた物、それは封筒だった。

「はい、これ、確かに渡しましたよ。預かった物はメモ用紙だったんだけどね。そのままではなくなってはいけないから、店の物だけど、封筒に入れて封をしておいたの。内容を見てはいけないし、勿論、預かった時も見てないからね、信用してね」

手を取られ、乗せられた。封筒…。何だか急にドキドキしてきた。

「あの、これは…」

「アイちゃん店を出たでしょ?その後で、また…来て、アイちゃんが来たら渡して欲しいって」

あの日、あの後でって、…どっちの…。

「私、迷ったけど、預かりっぱなしだったメモ、渡したのよ」

「え?」

渡した?よく解らない。

「今更、余計なお世話だと思ったけど、でも、ここに来たら渡して欲しいって、約束だったでしょ?…屁理屈だけど、ハルト君が来たから。だから私は私の仕事をはたしたの。…あのメモを受け取ったら、会えてた時に変わっていたモノ、あったはずだと思ったから。勿論、アイちゃんのメモも何が書いてるなんて見てないままよ。こんな風に、封筒に入れて置いていたから」

あ、私の、昔のメモを渡したって事?……今更?

「あ、じゃあ、この封筒の中のメモは」

「ハルト君から預かった物よ」

…悠人から。
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