さようなら、初めまして。
「あっちの、いつもの奥の席、丁度近くにお客さんは居ない。来てもこっちを案内するから。ゆっくり読んで?
珈琲、入れて持って行くから、…さあ…」

…。あの、メモは、もう……。

「はい…」

……ふぅ。鞄を置き、腰を下ろすと、珈琲とモンブランが置かれた。

「あ、これ…」

「今日はご飯を食べに寄ってくれたんでしょ?でも、そんな気分じゃなくさせてしまったわよね。でも、私も預かったまま、気が気じゃなかったの。来てくれなかったら前みたいに渡すじまいになったかも知れない。そう思うと責任重大なの。タイミング一つ狂えば、もしかしたら、大きく影響してしまうかも知れないモノでしょ?
ごめんね、アイちゃんのメモを渡した時、余計な事も言っちゃった」

「え?」

「あの時、このメモを、どんな思いでここに託して行ったか、どれだけアイちゃんが、落ち着かず、ジリジリ不安を募らせていたのか。アイちゃんが何か言った訳じゃないけど、待ち合わせをしてたのは私にだって解る事でしょ?
何度か珈琲を追加注文してくれながら、…少しも減らないのに。閉店まで居て、声を掛けて、渋々、店を出るのも躊躇って。
出た後も外にずっと、暫く居たでしょ?」

「あ……、は、い」

「そんな事もね、とにかく、思いつくままありとあらゆる事を話したの。今日までどれだけ長い間待たせたら気が済むのって、言っちゃった。事情も考えずに……ごめんね…だって…黙ってられなかったの…あんまりだと思って…突っかかっちゃった。
ごめんなさいね余計な事を」

あ、もうそれは…。奥さん…私の代弁をしてくれたんだ。

「……いいえ、私、そういう事も、もう……言えませんでした。有り難うございました。解ってると思いますが、私達はもう…」

「アイちゃん…」

「せっかく預かってもらった物ですから、目を通しますね」

「うん、…確かに、渡しましたよ」

「はい」

…。
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