さようなら、初めまして。
…ふぅ。封を開け、紙を取り出した。広げた。…一枚目。最初に飛び込んできたのは、携帯の番号。そして住所の文字だった。一番上、…逢生へ、って書いてある。
はぁぁ、悠人…駄目だ私、未練タラタラ。このメモ…捨てたくないよ…。

携帯…。今更これを知ってどうなるというのか。でも、これを書いた理由は解った。知らせてなかった事、悠人も悔やんでくれたんだ。偶然だ。奥さんが渡してしまった私の、昔、店に言付けたメモにも、悠人の携帯と住所、聞いておけば良かったって、書いていた。今聞かせてって言っても遅いけどって。これは偶然、その返事のようになった。
随分時間がかかった返事になったね。今教えてもらっても……遅いよ、悠人。時間は戻せない。
何も考えてなかったと思う。携帯を取り出した。

【番号と住所、有り難う。メモは今、受け取りました】

ブー。あ。まさか、返って来るとは思わなかった。

【俺も解ったよ、逢生の番号】

あ、…フ。…そうだ、そうなっちゃうよね。…やっと、今になって連絡先を知るなんてね。ごめん、もうちょっとだけ。

【まだ読んでないの。見たのは、携帯の番号と住所だけだから】

もっと早く知っていたら。私達は…。

【うん】

【このやり取り、彼女に悪いから、誤解しないようにちゃんと言ってよね】

【うん】

うん、うん、て。うんばっかり。…そうだ、一緒に居るのかも知れない。…ごめんね。もうちょっとで終わらせるから。

【随分遅くなったけど、あの会う日の前に会った時、大したことじゃないのに、わざと拗ねたみたいに機嫌を悪くしてごめんね。何にも悪くなんかなかったから。ずっと謝りたかった。ごめんね】

はぁぁ。

【解ってる、解ってたよ。謝る機会をなくしたのは俺のせいだから、ごめん】

…もう、これで終わり。

【おやすみ】

【うん、おやすみ】

…帰ろう。メモを封筒にしまい、鞄に入れ、席を立った。カウンター越しに声を掛けた。

「奥さん…」

「あ、アイちゃん。どうしたの?」

「せっかくですが、私、帰ろうと思います。これは家で読みます」

「あ…そうね、その方がいいわよね。ここだとやっぱり落ち着かないものね。一人きりがいいわよね。あー、ごめんなさいね、気が
……全然まわってなくて」

「いいえ、有り難うございました、帰るのは……恥ずかしいからです」

情けない顔を晒して読みたくないと思った。きっと普通では居られない…。人の目を気にして取り繕うのも…無理だ。

「…あ……もう少し待って?」

「え?」

「もう出来るから。あなた、それ、テイクアウトの箱に入れて」

「ん?よし。待ってくれよ。……はい、お待たせ…」

あ。出来たオムライスを渡された。

「これ、今日は食べに寄ってくれたんでしょ?持って帰って家で食べて。私のお節介のお詫びだから」

「あ、でも。代金はお支払いします。注文したから」

「駄目よ。律儀なのは、こんな時は駄目。お願いだから軽い気持ちで受け取って。恐縮される程のモノでもないから、ね、お願い」

…。

「有り難うございます。では、頂いて帰ります」

「有り難う。また、ご飯食べに寄ってね?」

「はい。あ、厄介な物を預かってもらって有り難うございました。大丈夫です。もう、タイミングとか、時間に関わる事にはならない物ですから。
きっとこれは、過去を追い掛けるようなモノです。おやすみなさい」

「おやすみなさい、気をつけてね?」

「はい」

カラン…コロン。

「はぁ……おい、あの様子…駄目なのか、どうなんだ。アイちゃんはまた泣かされるんじゃ…」

「解らない。でも、複雑な事にはなってると思う。タイミングとか時間とか、関係ないって言ってたけど、あれは、私に気を遣ってくれた言葉だと思う。
…どうしてこんな風になっちゃったのか…。あんなに楽しそうにしてた二人だったのに…。私はアイちゃんと一緒に来てた、妙にしおらしいあの女の子に腹が立って堪らないわ」

「ん?あぁ、んん…俺達がどうこう言う事じゃない。当事者の問題だからな…」

「そうなんだけど…だって、話の感じじゃ…」

「だってじゃない。もう口を出しては駄目だ…我慢だ」

…。

「俺だって、ああいう内容を聞かされたら悔しいさ…」

「…あなた」
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