さようなら、初めまして。
【妹さんは結局、悠人に、悠人の身元を隠していた事は打ち明けたんですか?もしかして話すじまいだったのでは】

【自分のことより悠人君だね】

あ。……でも。

【申し訳ない、そこは私も聞いてないんだ。カッとなってしまってね、冷静じゃなかった。もし言ってないのなら、もうこれ以上悠人君を愚弄する事は知らせなくていいんじゃないだろうか。知って妹を恨むのは当たり前だけど、悠人君は、悔しさや虚しさ、後悔だとか、色んなモノに苛まれるんじゃないかな】

…。

【君は知っている。君の口から『ずっと騙されていたのよ』って、言う事はできるね。『そんな人に絆されてたのよ』ってね】

そんな事を言ったら、好きだという思い方に狡さはあったとしても、なんで先にちゃんと言ってくれなかったんだって…どうしようもなかったとしても、悠人は、自分が情けないと思ってしまう。傷ついてしまう。

【私からは言いません】

騙されてたのよって、言いたい気持ちが過らないでもない。でも敢えて言う事ではない。例えば、終わってない時の二人の間に入って、悠人を取り戻したくて揉めたとしても、人を蔑むような事を言ってまで取り返す事じゃない。……きっとそんな自分が嫌になってしまうだろう。それからだって、きっと…上手くいくとは思えない。いずれ壊れてしまう。

【そうだと思う。
もう君の元には戻れないから、自分がいいと言ってくれる人と居る事にした、そんな、どうにもならない気持ちから一緒に居ると決めたのだと思うよ。決して、杏梨の事を好きで堪らないと思った訳ではないと思う。情はあっても心は別だ。予定もないのに結婚するって言ったのは、君のためだね。もう悩ませないために言ったんだ】

今でも君が好きだから。未練なく忘れさせるために。
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