さようなら、初めまして。
「あ、これ」

「ん?」

「一緒に買った靴」

直ってまた私の元に帰って来た靴、履いてきていた。悠人、覚えてるかな、…それとも、そうだっけ?…て、言うかな。

「あぁ、覚えてるよ。デザインは好きなのに、色が、欲しいと思う色じゃないから悩んで」

…有り難う。…覚えてくれてたんだ。

「うん、それ。唸るくらい悩んで」

「結局買ったんだよな」

「うん。この靴、一度履いて、二度目に壊れたんだよ」

「え、駄目なやつを引き当てたってこと?」

「違うの。私がうっかり突っ込んじゃったの。ほら、道の脇の側溝の、金属の格子状の蓋。あれ。あれにズボッと」

「ドジだな、足、大丈夫だったか?」

悠人…。

「大丈夫だった」

「そんなとこに嵌まったら無傷じゃなかっただろ?」

「うん、二次災害に遭っちゃって、もう…片方どころか、両方悲惨な事になっちゃって。片方はね、ヒールが取れちゃった。履いたまま嵌ったヒールを抜こうと踏ん張ったから。……直すのにお金凄くかかりそうだったから…」

「ん?でも、綺麗だろ、それ。同じのまた買ったのか?」

…デザインも色も、同じモノを買ったとしても、それは違う、別のモノ。

「ううん、捨てようとしてたら、百子さんが直してくれてたの」

「あー、大家のおばあさんか。なんで?」

「うん。気に入って手に入れた物だし、簡単に手放しては駄目よって。大事にしないとねって」

「……そうか…。百子さん、元気?」

「うん、元気。…私より靴の方が長生きするわねって…」

「ブラックジョークだな」

「…うん、そうですねって言えないけど、でも、二人で笑った」

「うん…それでいいんじゃないか、気心が知れてるんだから」

「うん。……一緒に居なかった時にあったこと…話したい話…こうしてると一杯ある。きっと次から次に出てくると思う」

切りがないよ。思い出話は更に綺麗に美化されるから。

「…うん」

「ねえ。お願いがある」

「うん?」

「手を繋いでお店出たい」

「うん」

「それから…」

「うん」

「…お店の外で抱きしめて欲しい…」

「うん。それから?」

「あ、うん。公園を通って…」

「夜だぞ?恐くないか?」

「前を通るだけ。………うちまで送って?」

「解った。あの日のデート、ってとこか」

「うん」
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