さようなら、初めまして。
まるでそっくりそのまま移築したのかと思った。
外観は現代のマンションだった。なのに…ここは私の部屋かと見紛う程だった。
内装は今の部屋にそっくりだった。百子さんなら私の部屋の中の事、よく知ってる。この部屋は不思議な造りにされていた。普通の、さっきの玄関を開けたその先にまた玄関。"うちの"玄関。タイル張りのそこで靴を脱いでからになるが、磨りガラスの引き戸が設置されていた。飾りのように南京錠もつけられていた。さっきは開いていたから、カラカラと閉められてあの引き戸と同じだとはっきり解った。面白い工夫だ。
キッチンも…浴室も、勿論フローリングの感じも。飾り窓のように造られた窓は木の枠…。

「外観の造りから気に入ってくれてたのは勿論知っているのですが、そこは、そういう造りでは無理でしたので、これで何とか許して頂けたらと…」

「あの、これは一体…」

もう、ずっと聞き飽きさせてしまう程あのあの言い続けている。

「母にそろそろ同居して欲しいと頼みました。風邪からそれをきっかけに長引く入院にもなりました。元気だと言われてもいつどんな状態になるか解りません」

あ、あの時の風邪。

「まだ大丈夫だと言いますが、高齢も高齢、子供としては心配でなりません。母と暮らすということはあのアパートも取り壊すということになります」

あぁ、そうだ。では、こんな話をするという事は壊すことが近いという事だ。

「それで、です。勝手にこのような部屋を造ってみました。もし気に入って頂けたなら、ここに住んでもらえませんか?」

わざわざ私の為にだ。改築したとなるとこれは…私にしか需要のない特注…。

「あの…百子さんは」

「母もこのマンションに住みます。もしこの部屋に入って頂けるなら、この部屋の隣が母の住まいになりますから」

「あの…」

でも、…嬉しい限りの好意。勿論、また百子さんと近くに居られるのも嬉しいのだけど。……難しい。

「解ります、いきなりですし、意思も確認してないままにこのような事…おしつけるように。色々と聞きたい事もあるでしょうが、まず一つ。家賃は今までと変わりません。これはこちらの都合でのお願いですから。母の希望です」

あ。…通常、こんな部屋に今までの家賃の金額では到底ありえない。普通なら私の給料では家賃は無理だと諦めるマンションの部屋。……ここまで改築されていて。私はどうしたら。

「壊れたら、っていう約束をしていました…」

「そうです。母も元気です、部屋もまだ壊れていません、だから、その条件とは違います。だからこちらの都合でお願いしてます」

「でも…」

「ここに住みたいか住みたくないか、どちらかです。気に入ってないなら無理にとは言いません。次に住むなら普通の部屋が良いとなれば、さっきもお話しましたが、別の部屋を紹介します」
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