死にたがりティーンエイジを忘れない
「女子って、わけわからん生き物すぎる。付き合うとか、もう、おれ絶対に無理だ。とか思ってたんだけど、蒼が書いたような恋愛なら意味わかるし、わかるからこそ痛々しいし。これが蒼のノンフィクションだったらちょっとあれだな、と」
「あれって何?」
顔をクシャクシャにするほど笑ってみせていた雅樹は、ふっと表情を消した。
どういう表情をすればいいのかわからない、という言葉に正直な空っぽの顔がそこにあった。
「やめとけよ、って。転校してからの蒼は、どっかすげー遠くに行っちゃった感じがあったけど、国境の向こうまで見始めたら、ますますだろ。幼なじみで、友達で、親戚より近い相手だと思ってたのに」
わたしは首を左右に振った。
「国境の向こうを知ったとき、わたしは、自由だったころの自分を思い出した。狭い世界でがんじがらめになってた自分を、どうやったら解き放てるのかがわかって、目指すべきものを見付けた」
「そっか。人がどんどん変わってくのは仕方ないんだな」
「あんたが言うことじゃないと思うけど。あんただってだいぶ変わった」
「変わりたくないのに、まわりが勝手に、カッコいい雅樹くんのイメージを作り上げてくれるからさ。おれ自身、あっと気付いたら、何か変わってるんだ。ほんと、変わりたくないのに」
雅樹は壁に背を預けると、そのままずるずる沈み込むように座った。
文芸部誌を開いて、読んでいるのかいないのか、視線を紙面に落とす。
わたしも手元の文庫に意識を戻した。
文化祭の全日程の終了を告げる放送が鳴るまで、わたしと雅樹は言葉を交わさず、そうしていた。