死にたがりティーンエイジを忘れない


「笹山くん自身は、もうこの店には来られないって。蒼ちゃんが客の男に営業スマイルを向けるのがイヤなんだって。精神的な潔癖症っていうのかな。さすがにそれはどうなんだろうって感じでね」


そうです。

何かおかしいかもしれないんです、あの人。

急にキスされたとき、意味がわからなかったんです。

もとには戻せないものを簡単に壊したんです。

あの人とわたしでは、何を大切にするかが全然違うみたいなんです。


言えたらよかったのに。


頭に、もやがかかっているみたいだった。

週末、デートをした。

肩を抱かれて、髪を撫でられて、キスをされた。

恋人らしい振る舞いを求められるたび、自分の意識がかすんでいくみたいだった。

人格が消えていく。


一緒に入ったレストランの、夕食はイタリアンだった。

油っこいソースがどろどろしている。

水をちゃんと飲んでおけば、パスタもピザも、小麦製品は全般に吐きやすい。

ああ吐きたい吐きたいとばかり思いながら、愛想笑いだらけの会話をやり過ごす。


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