死にたがりティーンエイジを忘れない


その日ドラッグストアに行ったのは、食べ物を買うためだった。

カゴを手にして店内を徘徊し始めたときだ。


唐突だった。

音が、わたしの全身を貫いた。

アップテンポな轟音の乱舞、爽やかに明るい曲調。


その瞬間まで有線放送の店内BGMが流れていることさえ気付かなかったのに、曲が始まった瞬間に空気が変わった。

音量が上がったわけではなかっただろうし、知っている曲だったわけでもなかった。

けれど、なぜだか、その曲はわたしをとらえた。


しなやかに伸びる、少年のように尖った、不思議な声だった。

強がるみたいなロックサウンドを背景に「彼」は歌った。


包帯で無理やり覆い隠したわたしの心に、ずかずかと踏み入ってくるような歌だった。


感情なんてないふりをして、そのくせ本当はひそかに傷付いている寂しがりやの女の子。

怖がらずに、正直な笑顔や涙をどうか見せてほしい。

受け止めるから。


そんなふうに「彼」は歌う。


「何、言ってんの……?」


ふざけんじゃないよ、と思った。

怒りが湧いた。


何を勝手なこと言っているんだろう?

何さまのつもり?

優しさのつもり?

あんたに何がわかる?

一人で平気だって、必死で心を凍らせてきた。

そうやってどうにか自分を守ってきたのに、何で全部明かしてみせろなんて言う?


煮えくりかえる感情が、涙になってあふれた。

全身を揺さぶる音と声に、あらがえなかった。

我を忘れるほど衝撃的な歌だった。


< 303 / 340 >

この作品をシェア

pagetop