死にたがりティーンエイジを忘れない
翌日のことだ。
普段は週末にしか会わないのに、平日の夜のバイト上がりに笹山から部屋に呼ばれた。
用件はもちろん掲示板のことだ。
わたしが部屋に着くなり、笹山は不機嫌そうな顔で言った。
「どうして髪を切ったの? ボクは、伸ばしてほしいって言ったよね?」
わたしは答えなかった。
言葉が、笹山の前では形を持たない。
自分の気持ちを相手に伝えることは、どんな場面であってもエネルギーを使う。
わたしは、笹山のためにエネルギーを使おうと思えずにいる。
いつからだろう?
最初はもうちょっとまじめに努力していたはずなのに。
笹山が好きな映画を、わたしは同じように楽しむことができない。
不幸なサスペンスを「楽しむ」という行為に対して、嫌悪感を覚えてしまうことさえある。
「このおもしろさがわからないなんて」と笹山に言われたせいで、引け目を感じてもいる。
そう、つまり感性が全然違うから、何を話したとしても、会話が成立しない気がする。
だからわたしは、笹山の前では言葉を放棄している。
笹山は不機嫌そうに、それでもわたしを抱いた。
儀式のように、いつもとまったく同じ流れで。
その行為にどんな意味があるのか、麻痺し切った感覚では、もう何もわからない。
全部終わってシャワーを浴びた笹山が眠りに就いた後、わたしは服を着て部屋を出た。
真夜中と夜明けのちょうど中間のころ。
歩道の信号機は光を消して、車道の信号機は赤や黄色の点滅を繰り返していた。